人と土と暮らしと

  • 第1話
  • 第2話
  • 第3話
  • 第4話
  • 第5話
  • 第6話
  • 第7話
  • 第8話

[第7話]「水田」は、日本の「土の文化」だと思う。

「自然」という言葉を聞いて、あなたはどんな風景を想像しますか?広大な原野でしょうか、それとも大海原でしょうか。辞書をひもとけば「人間の意志・作為が介在しないあるがままの状態、現象、およびそのことによる生成物。洞窟、湖、滝、山、川、海、泉、台風、地震、津波など」と書かれており、人間が介在しない状態や現象だと解説されています。

しかし、日本の自然をイメージする時は、水田と緑豊かな山々の長閑な風景が一般的です。そう、ちょうど宮崎駿監督の「となりのトトロ」の冒頭に登場する里山風景、昭和30年代にはどこにでもあった日本の風景です。しかし、これは人間が自然と共生して作り上げた風景です。なぜ、ここでこのような話題を出すのかと言えば、ある意味で水田は、日本ならではの「土の文化」だと考えるからです。

近畿農政局整備部のサイトには、次のようなデータが掲載されています。『日本の水田面積は約260万ha。これは琵琶湖の40倍の広さに相当します。また、ため池の総数は全国で21万カ所。そして、約40万kmの水路網。つまり、日本は、琵琶湖40個分に相当する湿地帯、21万ヶ所のため池、地球10周分の長さの小川を持っていることになるのです。つまり、現在、私たちが目にするほとんど自然の風景は、何世代にわたって「農」のために造られ続けてきた自然であり、いわば、人の手が加わった自然なのです』

水田は多くの水を蓄え、地中に浸透し濾過(ろか)することによって、地下水の浄化作用や窒素を環境に無害な窒素ガスに戻す作用(脱窒効果)なども認められています。また、亜硫酸ガスやディーゼル車などで問題となっている二酸化窒素などを吸収する働きもあります。

このように水田は、環境に優しい日本ならではの「農の文化」であり「土の文化」であったのです。化学肥料が全盛になるまでは、農家の人たちは苦労して土づくりに励んだと言います。化学肥料に頼り過ぎた結果として水田の土のチカラも弱っていると指摘されており、その上、開発などによって長閑な里山の風景も次々と減少しているのが現実です。

少し話はかわりますが、都市部では、土の占める面積はもちろん、緑もどんどん減少しています。アスファルト舗装やビルの照り返しの熱をはじめ、冷房の熱や車の排気熱などで、気温が上昇するヒートアイランド現象が、当たり前のようになってしまいました。それに比べて郊外は、緑や土や水田があるために周辺の気温を下げる効果があるのです。水田と気候緩和についてのデータを、さきほどの近畿農政局整備部のサイトからもう一度引用させていただきましょう。

『日本全国で、周りのほとんどが水田で囲まれている世帯(家の周り1平方kmのうち水田面積が半分以上占める)は、約450万戸あります。(いずれも農業環境技術研究所の試算)。これらの地域の冷房状況から換算すると、水田の気候緩和による貨幣評価は約87億円と試算されています』

地球温暖化や異常気象が叫ばれる現代で、「水田」をはじめとして、当たり前のように存在してきた「土」というものを、私たちはもう一度見直さなければいけない時代になっているのではないでしょうか。

第8話へ


里山の風景(イメージ)


水田(イメージ)

[参考資料]
●フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
●近畿農政局整備部『水土里の近畿を次世代に』
http://www.kinki.maff.go.jp/introduction/seibi/index.html